過日、SNSを賑わせたのは、アフロヘアが美しい黒人女性モデルの写真を使い「ツヤッツヤのサラッサラになりたい。」「なれます。」と書いたヘアサロン専用の整髪料宣伝ポスターだ。
こういう●▲■!な反論が出てくるあたりも、もはや定番といえよう。
多様性に対する配慮の欠如 like Aマッソ。日本が誇るお家芸のようなそれらを我々が目撃するのはこれが最初ではないし、残念ながら最後でもないだろう。もちろん、その度にわたし自身がああでもないこうでもないと屁理屈をこねることもできる……が、たまには違う試みをやってみよう。
そこで、この件について友人とチャットしてみることにした。
相手はネヴァダ州に住むアフリカ系の男子大学生だ。D君としておこう。どうやって知り合ったのかは、二人とももはや覚えていない。
D君は日本好きで、我が国に対して非現実的な「美しい国」的な幻想を抱いている。そんな可愛いらしい夢と幻を、反日・非国民なわたしこと丸屋九兵衛が情け容赦なくデストロイしていくのだ……。ちなみに、彼とのこういう会話もまた最初ではない。それに最後でもないだろう。
会話はいつものように、こちらからの挨拶で始まった。
――hey, how you been?
D:ハロー! 俺は元気だよ。……いまだに君のことを「セレブリティではないか」と疑っているけど。
――いや、セレブリティではないよ。たまに出演仕事があるだけ。ところで、再び日本に失望する心構えはできてるかな?
D:OMG! また俺を苦しめるつもりか?!
――その通り。
D:せっかく、「美しい国・日本」という夢に生きてるのに〜。でも本当は、ほとんどの日本人は君みたいなんじゃないかと俺は信じてる。それかMIYAVIみたいか。
――MIYAVIは確かにクールだが、「ほとんどの日本人は君みたい」とはどういう意味か。
D:ほら、君はインテレクチュアルでクレヴァー。好奇心があり、他文化への関心が明らかだ。
俺の友達のヤマグチにも似たような傾向がある。ただ、彼女は日系アメリカ人であって日本人ではないので、考え方が違うのかも。
――では……(と画像を見せる)
D:これ、何? この美しい女性はどなた?
――モデルやと思う。しかし問題は彼女ではなく、そこに書いてある日本語のフレーズ。
D:なんと書いてあるの?
――言わば、「髪の毛をストレート&シルキーにしたい」「できます」かな。
D:OMG! ウググググ。
――なので、わたしはこれを作った。
D:確かに、これで公平になるね!
――エグザクトリー。
D:ちょっと待ってくれ。つまり、俺が日本に行ったらmockされるということ?
――とは限らないよ。
D:確率は50/50?
――少なくとも憎悪されることはないと思う。
D:フムム。日本に住んだとしたら?
――同じく、憎悪されないだろう。ただ、これ以上この件を話す前に、mockを定義して欲しい。
D:ええと……Mockとはdisrespectfulであること。誰かをdisgraceしたり恥辱を感じさせたりすることだ。人の知性や品格を貶め、中傷すること。太っている人に向かって、カバの真似をして見せる、とか。
――By the way 映画『ゲット・アウト』は見た?
D:見たよ! クレイジーな映画だったねえ。
――あの映画では白人が黒人の体力を称賛していて、でも同時に「ビースト」呼ばわりしてたね。
D:ああ。俺に権力があれば、白人のブルシットによる束縛から同胞を救い出すためなら何でもやるのに。
――白人のブルシットといえば、フランツ・ファノン( Frantz Fanon)は読んだ? 彼の『黒い皮膚・白い仮面』には「我々黒人は昔からずっとずっと昔から、生物的/性的/官能的/生殖的イメージがあなたたち白人に押しつけられてきた」と書いてある。
D:おお、さすが! 白人中心主義のパラダイムを分析することにかけては、フランツ・ファノンかStuart Hallがベストだね。
――君が日本に来たら、ファノンが書いた通りの見方をされると思う。「生物的/性的/官能的/生殖的イメージ」だ。
D:えっ、俺がセクシュアライズされるということ?!
――まずはスポーツ万能と見なされる。
D:俺、スポーツはまったくダメなんだ。
――そしてラッパーだと思われる。
D:やめてくれ。俺が好きなのはジャズとクラシックだ。
――黒人は「歌と踊りが好きで陽気な人」か「めっちゃ悪いラッパー」でないと生存を認められない。
D:LMAO。そのステレオタイプはひどいな……。
――そしてもちろん、ベッドで優秀であることも条件だ。
D:あ、そこは任せてくれ。そのステレオタイプだったら受け入れても良い。
――でも、生物的/性的/官能的/生殖的イメージの上塗りになるぞ。
D:日本に行って、その自信を語ったらどうなる?
――ステレオタイプそのままに扱われる。
D:髪がブレイドだと変かな?
――そんなことはないよ。ただ、絶対的なルールとして「黒人は日本人より知性が低くなければならない」ということも付け加えておこう。
D:待ってくれ、俺が知的だったら日本人はどうするんだ? どんな反応が返ってくる?
――その知性をどうやって証明するつもりだ? 日本人は英語を理解できないのに。
D:それはフェアじゃないな! 俺はトライリンガルだし、次は日本語を学ぶよ!
待てよ。俺が日本語を話せたら、日本人はどう反応するだろう?
――もちろん、みんなは驚くだろうね。それでも、生物的/性的/官能的/生殖的イメージは拭い去れないだろうが。あ、言い忘れていたことがあった。黒人である以上、君はスラングで話すことが求められる。
D:OMG……ず〜っとこんな感じだったの?
――実はこれでもマシになったんだよ。
D:本当に?
――なあ、ここは「ソウル・ミュージックを歌いたい」と主張する歌手が顔を黒塗りにしてた国だぞ!