厳格なカロリー制限ゆえにタピオカを避けてはいるが、わたしは中華系清涼飲料としての茶が大好きだ。主にフルーツティーが。
コロナ鍋の中で1年が過ぎて再び冬になっても、その手の店――茶巷、TikTea、宜蘭、The Alley、萬波島嶼紅茶 Wanpo Tea Shop、等――が日本で生き残っていることに感謝しつつ過ごす日々である。
過日。
閑茶坊という店に入ると、店の青年がとても美しいことに気づく。
まるでサムエル・キム・アレドンド、その顔の整い方は尋常ではない。
彼の日本語は巧みだが、母語話者ではないアクセントだ。"Where you from?"と聞いてみたら、"China"と答える彼。
わたしが"But you look like a K-Pop star"と伝えると、彼は照れながら笑い、今度は日本語で「ありがとうございます」と言った。
よし、また来よう。
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以上、つい先日の実話。
そう、わたしはLGBTQのBであり、Qでもある。
こんなことを堂々と書いていられるのは、もちろん時代が変わったからだ。
つまり……
①たいていの人がありのままのわたしを認識するに至っていること。
②我が一族でこれを読みそうな面々も、わたしの傾向を受け入れていること。
③そして、受け入れてくれなさそうな相手(ここだけ時代が変わってない)に対しては、わたしが自らサボタージュを行なっていること。
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トレッキーならみんなが知っているように、サボタージュは木靴(サボ)に由来する。
のちに『セックス・アンド・ザ・シティ』のサマンサとして知られるようになるキム・キャトラルは、若き日に映画『スター・トレックVI 未知の世界』に出演した。テクノな髪型が印象的なエンタープライズの操舵手、ミスター・スポックの弟子にあたるヴァルカン人士官ヴァレリス大尉として。
時は2293年。宇宙航行中に届いたサンフランシスコの艦隊本部からの通信(直ちに帰投せよ)に応答すべきか否か悩む先輩たち(中佐クラス)に向かって、ヴァルカンのくせに地球の歴史に詳しいヴァレリスは語る。
「地球でオートメーション(生産工程自動化)というものが生まれたのは数世紀前。そこに脅威を感じた労働者たちは木靴、つまりサボ(sabot)を挿入することで機械を止めようとしました。サボタージュという言葉は、そこから生まれたのです」
こうして先輩士官たちは「機器がマルファンクションを起こしておる」ということにして、帰投命令には無視を決め込むのであった……。
ただし、この場面が絶妙なのは、日本人が考える「サボタージュ」で解釈しても意味が通じてしまうことにある。
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日本では。
Sabotageから生まれた「サボり」「サボる」という言葉は、「怠慢・欠勤・放棄・逃亡・AWOL」的な意味で、とてもカジュアルに用いられる。
だが、英語のsabotageは――これまたトレッキーなら承知しているように――もっとキナ臭く、物騒で、穏やかならぬニュアンスだ。
それは妨害行為、もっとハッキリ言うと「破壊工作」である。
わたしが実行したサボタージュもそれだ。
場所は母親宅。
何を破壊したのか?
通信環境である。
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Netflixを例にとろう。
我が家の場合、導入画面に示される選択肢は2つで、「QB」と「キッズ」。この家には児童などいないが、後者「キッズ」を選択した場合は、暴力的だったり薬物的だったり性的だったりするコンテンツが自動的に排除されるものと思われる。
子供をデジタリー・ディヴァイドしておくことは、親にとって教育上のメリットがある行為なのだろう。
同様に、老いた親をデジタリー・ディヴァイドしておくことは、わたしにとってメリットが大きいのだ。
わたしゃ「家庭内クローゼット」なLGBTQだから。いや、母を除く親族は知っているわけだから、「核家族内クローゼット状態」と呼ぶべきか?
つまり。繰り返しになるが、
①わたしの性的傾向(LGBTQのBでQ)は、観客の皆さんや読者諸氏には筒抜けである。
②ほとんどの親戚も納得している。
③だが母には知らせていないのだ。
10年前の香港旧正月映画『All's Well, Ends Well 2011』に出てきたアーノルド・チェン(ドニー・イェン演じるカンフー系メーキャップ・アーティスト)の母親のようにカンサヴァティヴだから。
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さて。うちの母は、携帯電話業者に騙されたのか、ロクに使えもしないタブレットを持っている。
「ロクに使えもしない」状態のままなら、それでいい。だが、使えるようになるとどうなる?
LGBTQアイデンティティを高らかに謳う場面がちょいちょい出てくるわたしの動画が筒抜けになってしまうかもしれん!
なのでわたしは、母宅のWi-Fiをオフにしておいた。
あくまでスイッチのオンオフであって、Wi-Fi機器を物理的に破壊する行為には至っていない。それだけでも良心的というものである。
だが、最近になって母から「米粒写経うんぬん」という発言が出たので、わたしは母のITリテラシー(?)の成長を警戒している。このコロナ渦の時代に、またも母を訪ねてサボタージュせねばならんのか?
ただ、わたしの活動の主軸はあくまで有料コンテンツである。無料の動画は上澄みのようなもので――わかりやすい作品を「水割り」扱いされた小説家はR・A・ラファティだったか? 「ラファティの水割り」? であれば「丸屋九兵衛の水割り」だ――つまり、わたしの本性を知らない親が見ても害は比較的少ないだろう。
仮に彼女のITリテラシーが飛躍的に向上し、YouTubeで検索ができるようになったとしても、それで見られるのは『NINJA PLEASE』まで、である。
有料オンライン・イベントのチケットを買うのはネクスト・レヴェル。母は確かにクレジットカード所持者ではあるが、それを使ってPeatixで支払いを済ませるところまで行き着くのは、二階級特進くらいのハードル越えが必要となろう。
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こんなことを書いているのは、最近になって恐るべき履歴書フォーマットを見てしまったからだ。
性別欄には選択肢が3つ。
○男性
○女性
○LGBT
……これは配慮のつもりなのか?
そもそもLGBTは性別ではない。単純な性別記入すらアウト・オブ・デイトに思えるのに、性的傾向を明記せよ、と。
隠しておきたい人だって多いのに。
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『ザ・ボーイズ』第2シーズンを思い出す。
「ヒーロー界は白人による寡占状態では?」というTV番組司会者マリアの指摘に対し、「我々、ザ・セヴンは多様性に満ちたクルーだ!」と主張するホームランダー。
「Aトレインがいるから、7人のうち少なくとも1人は黒人だ」とも。
「少なくとも」という表現となるのは、ブラック・ノアールというメンバーが正体不明(GIジョーのスネイクアイズ状態で決して素顔を見せない)だから。そこでやめればいいのに、調子に乗ったホームランダーは「マリア、君のために特ダネもある。実はザ・セヴンには同性愛者もいるんだ」と続ける。
「それはクイーン・メイヴだ。エレナというヒスパニック女性と交際中、誇り高きレズビアン!」
クイーン・メイヴ本人の意志はおかまいなし。
容赦ないアウティングとはこのことである。一橋大学のように。
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先ほど書いた「隠しておきたい人だって多いのに」は、わたしにとっても他人事ではない。
「対外的にはカミングアウト、家庭内ではクローゼット」なのだから。
腹立たしいのは、こういう話題になると必ず「いや、きっとお母さんも理解してくれると思うよ」とのたまうヤツが出てくることだ。他人の家の事情も知らんのに、なに勝手な夢見てんねん。
通名を使う在日コリアンも、「祖父はヴァルカン人です」と言ってしまうロミュラン系青年も、クローゼットから出てこないLGBTQも、それぞれに事情がある。
それを理解せず、親切心からか不思議な正義感からか、公言を推奨してくるタイプは……ホームランダーなみの人格者だね。